『蝉しぐれ』の主人公・牧文四郎には子供の頃からの大親友がいた。小和田逸平と島崎与之助だ。同じ石栗道場へ通い、離れ離れになった時期こそあったが、文四郎が窮地に立たされた時、救いの手を差し伸べ一緒に闘ったのも逸平と与之助だった。三人は固い男の友情で結ばれていた。成人した逸平と与之助に大抜擢されたのは、ふかわりょうさんと今田耕司さんだった。TVのバラエティ番組ではお馴染みで人気者、超売れっ子のふたり。忙しい時間をぬっての撮影だ。ふたりを選んだのは、もちろん黒土監督「俳優でない彼らをキャスティングしたことで、映画に広がりを見せる」と語る。共演の市川染五郎さんも「いい刺激になり新鮮」と答えてくれた。始めて5月26日に本読みが行われた。その時は正直、まだ役に対して研究が足りなかったふたり「逸平はチャーミングでヤンチャ坊主、与之助はいつも余裕がある感じでね」監督からはこんなアドバイスがあった。すべての俳優に対して監督は妥協しない「撮影に入る前までに時代劇の歩き方を練習してください」監督から渇が飛んだ。そして撮影が始まった。
凄くいい経験をした---今田耕司
近江八幡の八幡堀で行われた撮影の待ち時間に快く笑顔で子供達のサインや写真に応じていた今田耕司さん。黙々と台詞の稽古に励んでいたり、スタンドインも自ら名乗り出たりするほど、真剣に取り組む姿は見ていて気持ちがいい。7月18日、目黒の八芳園での撮影では今田さん長い台詞も間違えること無くスムーズに江戸帰りで情報通の与之助を見事に表現していた。そしてこの日は今田さんの最終日。感想を尋ねると「凄くいい経験でした。映画の完成を楽しみにしています。後はふかわに任せました」とふかわさんより一足早く撮影を終えたその表情は達成感に溢れていた。
映画が病みつきになりそう---ふかわりょう
ふかわさんは最初に台本を読んだ時、物凄くいい役をもらったと思ったそうだ「監督から演技をするんじゃなくてふかわりょう≠出してと言われたのが嬉しかった。今まで出会った演出家の中で、最も印象に残る人。演出も筋が通っている。監督の言葉を聞くとなるほどなぁと思う。不自然さが出てしまうと、すごく厳しく注意されました」と真面目に答えてくれたかと思うと「普段隠しているオデコを全快している所と、ちょんまげ姿が似合っている所を見て欲しい!」とオドケルとはさすがだ!7月28日、ふかわさんの全ての撮影が終わり「今回、出演できて幸運だった。映画の撮影にやみつきになりそうです」と笑顔で語ってくれた。
時代劇に初挑戦したふかわさん、今田さんにとって2004年の夏は忘れなれない一生に一度の夏≠ノなったことだろう。