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□眩しいばかりに美しく35ミリに甦ったおふく


木村佳乃さん(おふく)
 木村佳乃さんについて語りたい。是非皆さんに映画を観る前に知っていただきたい。この映画のおふく役は、世界広しと言えども、彼女しか居なかったであろうことを。文四郎の市川染五郎さんと木村佳乃さんに出会えたことが、おそらく私の最大の幸運だったと思う。  14、5年もの間、この映画を作りたくて走り回った。その折々に、文四郎とおふくを誰にするか、どの俳優にするかが変わって行ったものである。何故なら俳優も年をとるからである。  そして、いよいよこの映画の実現が決まった時、おふく役は木村佳乃さんしかありえないと直感したのである。「透明な女性」。これがおふくには何より大切だと思った。肉体も精神も透きとおるように美しい女性と考えた時、木村佳乃さんが浮上したのである。  しかし、私は彼女について知らない。勿論、テレビドラマに出演する彼女は多少知っている。けれど、そんな知識はまるで役に立たない。彼女が一体どんな人で、どんな演技をするのか。テレビサイズの演技ではない。あのスクリーン上の映画でしかない演技だ。  一度会って、話をしたら、素敵な女性だった。自分に正直で、等身大の、あるがままの女性に見えた。それはナチュラルであろうという事にも思えた。美しいのに、何の気取りもなかった。そこが気に入った。  けれど演技は未知でしかない。不安は大いにあった。それを乗り越えて彼女に決めた。撮影までには長い時間があった。彼女も私もおふくについて考える時間は十分あった。そして撮影の日が来た。  NHKに脚本を書いたテレビドラマ「蝉しぐれ」と映画の大きな違いは、物語りのどの時点で、子役から大人の俳優に変わるかであろう。テレビではそれが結構早かった。無理を承知でそうした。それはそれでよかったかも知れない。観た人たちの評判からは、違和感がなかったらしいからだ。  さて、映画のおふく。大人のおふくはラスト近くになって初めて登場する。江戸へ行ったおふくが国元へ帰る、欅御殿で文四郎と再会するシーンからだ。  そうなのである。木村佳乃さんは江戸へ行き大人の女になったおふくとして、文四郎の前に再登場するのだ。  このおふくは、絶対に絶対に美しくなければならない、というのが私の演出プランである。美しいだけでは物足りない。「透きとおるように美しくなければならない」。  欅御殿のセットは東宝スタジオ第2ステージに建てられた。着物を身につけ、かつらをかぶり、木村佳乃さんのおふくが欅御殿に現れた時、私たちスタッフは息をのんだ。おふくが、まぎれもなくおふくが、現れたのだ。その何と美しいことか。  映画は光である。光がなければカメラを回しても映らない。照明の吉角荘介さんに私は頼んだ。「透きとおるように美しく」光をあてて下さい。吉角さんとは1991年の「渋滞」からの付き合いであり、私は彼の才能を200パーセント信じている。だからである。  彼の光によって木村佳乃さんのおふくは、まぶしいばかりに美しく35ミリのフィルムに甦った。  御期待下さい。
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